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作者インタビュー


ハワイ 2007年





どうしてハワイを撮ったのかとよく聞かれますが、『ハワイ』に関しては、撮影する意図というのはほとんどなかったんですよ。ただ、以前からずっと僕の気持ちの中にハワイっていうのがあったんです。
その理由自体は、結局いまだによくわからない謎なんですが、時間が経つにつれ、1度、撮ってみたい場所だなあという風にイメージが膨らんでいったことは確かです。
僕は昭和13年生まれですから、小学生の頃というのは戦後真っ只中の世代なんですね。もう嫌っていうほどハワイを舞台にした映画や歌謡曲があって、メディアを通じてハワイが記憶されていたんです。観光ガイドやアメリカの映画で描かれるハワイは、たいてい鮮やかなブルーだったりグリーンだったり・・・。スクリーンやブラウン管を通じて観るハワイのイメージはどんどん膨らむんだけど、でも、僕のなかのハワイは圧倒的にモノクロでした。僕の場合、子供の頃からの記憶っていうのは基本的にモノクロなんです。
だから、この作品にテーマがあるとしたら、唯一、「モノクロでハワイが撮りたい」ということでしょうね。なんとなく、「今撮らなければ、きっと一生撮らないだろう」そんなふうに思って、ハワイに行ったんです。

 

ハワイ 2007年


モノクロームのハワイを撮ろうと決めた段階で、すでに僕の中の勝手なイメージは出来上がっていました。それは「ハワイで熱海を撮ってみよう」ということ。カラーで色々撮られた写真集なんかもいろいろあるけれど、それは僕が撮る必要がないから。
僕の中のハワイに対する勝手なイメージは熱海に代表されるような、一種のぬるさなんです。温泉地の如何わしさとか、そういう雰囲気がハワイでも撮れるかなと期待して行ったんですけど、ちょっと裏切られました。もうちょっと歓楽街的なところがあるかと思っていたんですが、店も早く終わってしまうし人もいなかった(苦笑)。
比較的、熱海感があるのは、夕暮れの坂道、へッドライトをぼんやり点した車が上がってくる写真でしょう。ホノルルの夕方っていうのは、こんなふうに妙に色っぽい生ぬるさがあるんですよね。
それから、ハワイにはやっぱり島独特の暗がりっていうのもある。移民の島、ヒロに着いたときは、いつか目にしたことがある既視感というより、大昔、ここに居たぞという、全くいいしれぬ懐かしい感覚に包まれました。まるで体の細胞の網目からにじみ出てくるような奇妙な懐かしさに。
やっぱり、僕がハワイを撮る一番の根っこには日本があると思うんです。だけど、ストレートに日本人の移民がこの島にやってきたことと繋げて撮りたいわけではない。ただ、そこにいざなう1本の記憶を辿っていった先に用意されていた場所、そんな気がしますね。

 

ハワイ 2007年


東京都写真美術館に収蔵されている作品のうち、その大半は90年の開館時に収集されたものです。作品の選定は自分自身で行いました。スランプ時代の〈北海道〉の割合が多いのでは、ということですが、特に理由はありません。美術館に収めたい作品を自分なりにろ過していった結果、〈北海道〉が多くなったのかもしれません。「レトロスペクティヴ1965-2005」ではこれまで比較的多く紹介されてきた60年代から80年代に加えて、90年代以降、特に2000年代の〈新宿〉や〈ブエノスアイレス〉もスペースを割いて紹介されます。始めて僕を知る人も含め、多くの人に見てもらえればうれしいですね。

「Ⅰ.レトロスペクティヴ 1965-2005」では、僕がネガから選んだ未公開の作品も含めすべてゼラチンシルバープリントで展示します。僕が展示構成を考えた「Ⅱ.ハワイ」では大型インクジェット・プリントも展示する予定です。展示で重要なのはインパクト。展示室に入った瞬間に強烈な印象を味わってもらいたいですね。

(インタビュー 2008年2月)


 

光と影 1981年 東京都写真美術館蔵
北海道 留萌 1978年 東京都写真美術館蔵


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森山 大道(もりやま・だいどう)

商業デザイナーを経て、1963年にフリーの写真家となる。67年〈にっぽん劇場〉で日本写真批評家協会新人賞受賞。99年サンフランシスコ近代美術館、2003年カルティエ現代美術財団で個展を開催するなど海外でも幅広く活躍している。04年ドイツ写真協会 文化功労賞受賞。


展覧会担当の岡部友子学芸員と談笑する森山大道氏