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All Photos(c)Magnum Photos Tokyo
ロバート・キャパ 1954年 
クリス・スティール=パーキンス 2003年




本展は約40人のマグナム・フォトのメンバーがさまざまな視点からとらえた東京をご紹介する展覧会です。東京出身の僕は戦争中の東京も、戦後、焼け野原でなにもなかった東京も知っています。それが、エネルギーのある国際都市へと大きく移り変わっていったのは、やはり大阪万博あたりからでしょうか。人口密度もさることながら、小笠原から奥多摩までという変化に富んだ土地柄、これだけスケールの大きな都市は世界でも数少ないと思います。

 

東京支社を設立して17年目を迎えますが、各国のメンバーたちは、ここを訪れると必ず東京を撮影していきますよ。大小さまざまな建築物がひしめきあい、エネルギーあふれ、渾然としたこの街を、つまらないと言った人はいませんでした。東京はそれほど興味のつきない場所なのです。僕の作品に、『大葬の礼』があります。これは、『ニューズウィーク』誌の仕事で、“自分の好きな場所から撮れ”と言われて撮りにいったものです。猛烈に寒い日でしてね、宮内庁からの規制も厳しくて、オーバーを着てはいけないし、脚立に立ってもいけないと言われました。そのため、僕は一番良い場所で撮影できるように一番乗りで駆けつけ場所取りをしました。そして5時間待って、撮影したのです。前日からトイレに行かなくてもいいように半日間は何も食べずに水分も摂りませんでした。くだらないことと思うかもしれませんが、このような報道写真を撮るためには重要なことです。結局、開始30分前くらいに現れた報道カメラマンたちにはなぜか脚立の使用が許され、みな、脚立の上から撮影をしていました。しかし、僕は迷わず地上からの目線で撮影しました。2度の世界大戦から高度経済成長期、そしていわゆるバブル経済期までの長い歴史を生きた昭和天皇。
その最後をお見送りするという貴重な一瞬をとらえるためには、自分の目線の高さからでなくてはいけない、そう思ったからです。マグナム創立60周年を記念する今回の展覧会では、僕の思い出の「東京」のほか、メンバーたちがとらえたそれぞれの「東京」の魅力や、知られざる姿を存分にご紹介いたします。

   
ブルース・ギルデン 1999年 中)バート・グリン 1961年  
デニス・ストック 1956年




まず、マグナムのメンバーとして、初めて日本を訪れたのがワーナー・ビショフでした。絵心のあるビショフは雪の日の明治神宮を、まるで墨絵画のような作品に仕上げています。マグナムの創設者であり、古くから日本人との交流があったロバート・キャパは、'54年「カメラ毎日」の創刊を記念して初来日し、19 日間の滞在期間のなかで多くの日本の風景を撮影しました。そのなかの1枚である東京駅のホームを写した作品は、当時の日常のひとコマを印象的に写しだしています。そののちキャパはインドシナへ渡り、帰らぬ人となってしまいました。戦後から現代に至るまで、変わり行く「東京」を見てきたのは、ジェームス・ディーンの写真で有名な、デニス・ストックでしょう。ストックが初めて日本にやって来たのは'56年のことです。当時、日本文化の象徴でもある舞妓の姿などを撮影していた彼は90年代のお台場に大変興味を持ち、最近では汐留の高層ビル群を精力的に撮影しています。出版報道写真家として活躍していたバート・グリンは、'68年に富士山や京都をはじめ日本の印象をまとめた写真集を出版。東京ではキャバレーの店先やスーパースー、長島茂雄をモデルに昭和の時代を彩りよく捉えています。

   
マーティン・パー 2000年              ワーナー・ビショフ 1951年    久保田博二 1989年

携帯電話やプリクラをはじめ、日本のキャラクター文化を独自の視線でシニカルに撮影したのはマーティン・パーでした。大手家電センターの商品陳列棚に飾られた造花の桜を作品に収めた理由は、満開の桜を撮ろうと予定していた折、一足先に桜が散ってしまったためだというエピソードもあります。一方、写真学校で学んだ後、10年間にわたり生まれ育ったニューヨークを撮り続けたブルース・ギルデンは、新宿や浅草を中心に下町に暮らす人々の、エネルギッシュと悲哀の混在する内面を作品に封じ込めています。ロンドン在住のクリス・スティール=パーキンスは、夫人が日本人ということもあって、年に2~3回は来日をするという日本通としても知られています。アフガニスタンなど、戦禍のなかでの撮影を中心として活躍するクリスですが、意外にも彼が東京でとらえた被写体は困惑した表情で泥パックを施される犬や、パンダの着ぐるみを着た人間の後姿など、どこか滑稽で、物悲しさを感じさせます。世界各地で活躍する「マグナム・フォト」の写真家たち。そんな彼らを魅了した街は、おそらく世界でも数少ないのではないでしょうか?あなたもこの機会に是非、マグナムの視線で東京を感じてみてください。