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学芸員コラム

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大橋 仁 「新作より」 2007年 写真作品

日本の新進作家 vol.6 スティル/アライヴ

当館では「日本の新進作家」として現代作家を紹介する展覧会を毎年開催しています。第6回目となる本展は「スティル/アライヴ」と題した4人の アーティストのグループ展です。そこで、見どころや作家たちの作品について石田哲朗学芸員にお聞きしました。

今回は「現代人の生と時間、その表現」がテーマです。テーマそのものは最初からあった訳ではありません。出品作家を決めていく過程で出てきたものです。最初からあったのは私自身と同世代の30代の作家たちを選ぶということと、写真だけでなく映像メディアの作家も選ぶということでした。私が最も興味あるアーティスト4人を選ぶ過程で、同世代の30代にとっての「生と時間、その表現」というテーマにたどりついたのです。同世代の30代は、いったい自分たちの「生と時間」をどうとらえているのだろう? これが本展の作家選びの焦点となり、最も興味のある30代のアーティスト4人にお願いしました。


大橋 仁 「新作より」  2007年 写真作品

大橋 仁 「新作より」 2007年 写真作品

 

田中 功起
田中 功起
「新作のためのリサーチ・フォトグラフ」より2004-2007年
「新作のためのインスタレーションプラン」より2007年 ドローイング

 

屋代 敏博
屋代 敏博 「回転回LIVE! 東北芸術工科大学」 2007年 写真作品

 

伊瀬 聖子
伊瀬 聖子
「Swimming in Qualia(スイミング・イン・クオリア)」 2007年 映像作品 サウンドトラック スティーヴ・ジャンセン


大橋仁さんが撮るのは嘘のない写真だと思います。すでに発表した二冊の写真集には大きなインパクトを受けました。日常の続きとして義父の自殺未遂のような惨事や産科で分娩出産という誕生の瞬間が繰り返されていたり、何かヒリヒリした感覚をもって、生きることをリアルに描き出している。今回はタイやブラジルなどで撮影したものを中心にエモーショナルな仕上がりとなりそうです。

田中功起さんは主に映像をメディアとして国際的にも活躍している美術作家です。今回は住宅廃材を使ったインスタレーションとビール工場で瓶ビールのリサイ クル過程を取材した新作映像を発表します。家を壊して建て替えるとか、飲み終わった瓶ビールがリサイクルされるとか、そういう世の中の現象や物事の流れを「フリーズ(一時停止)」させ、速度を落として見つめ直す、そういう作品です。

屋代敏博さんは自ら回転体となってその空間に溶け込む写真シリーズ「回転回」で活躍中の人ですが、今回学校を舞台に参加型のアートプロジェクト「回転回 LIVE!」を行いました。展示作品は幼稚園から大学まで約15の学校との共同制作です。時間を共有したり、みんなで回るという参加の楽しさと同時に、「今の子どもたちにとって学校とは何なのだろう?」ということも考えさせられます。

伊瀬聖子さんは、ミュージックビデオや高橋幸宏さんなどミュージシャンらのライブで流れる映像作品を数多く発表している映像作家です。デジタルですが、彼女の作品からは、どこか懐かしくあり、まるでそよ風に頬を撫でられるような、そんな癒しのようなものを感じさせられます。今回は感覚の中を泳ぐような時間体験を大画面で見せる新作を発表します。
実は「スティル/アライヴ」というタイトルにはたくさんの意味合いがあります。ひとつには静止と運動のことであり、時間という観点から見た写真と映像を表している。また、直訳すれば「まだ生きている」という意味合いになります。美術館という静止した場所で、4人の作品に込められた様々な時間意識、時間表現を、展覧会に来た方、そこに関わる人々が過ごす。その時間こそが『今、ここ』にいること。生命感が希薄な時代ですが、『それでもまだ生きている』ことを実感させてくれる体験となればいいなと思います。
(いしだ・てつろう 東京都写真美術館・学芸員)