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作者インタビュー


《SHIZUKA》2004年 ⓒYANAGI Miwa 1400×1000mm
《MIWA》2001年 ⓒYANAGI Miwa 1000×1200mm

やなぎみわ マイ・グランドマザーズ

今回、ご紹介する「マイ・グランドマザーズ」は、私が2000年から撮り続けているシリーズで、その名の通り“私のおばあちゃんたち”をテーマにした作品です。普通、血縁のおばあさんというのは、そう何人もいないと思うんですけど、それが10人も50人も100人も存在すればいいなという願いから始まりました。
撮影はまず、公募したモデルへのインタビューからスタートします。50年後、どんなグランマになりたいかを具体的に話し合い、カメラの前で自演してもらうんです。衣装や小物もひとつひとつじっくり話し合って決めます。
このシリーズの前に制作していた「エレベーターガール」では、若い女性の群像をモチーフにしていました。撮影自体もここに立ってほしいとか、笑ってほしいとかは私がコーディネートして、彼女たちにはドールのようになってもらいましたが、「マイ・グランドマザーズ」は、モデルの意思が投影されている。すごく対照的なシリーズなんです。


《YUKA》2000年ⓒ YANAGI Miwa 1600×1600mm
《YUKA》2000年 ⓒYANAGI Miwa 1600×1600mm

 

赤い髪の《YUKA》は初期の作品です。髪の色や歯に輝くダイヤモンド、青いハーレーダビットソンもすべて彼女のアイディア。バイクを運転している隣りの男の子も彼女のリクエストどおりに捜してきました。余談ですが、なんとこのおふたり、撮影後に結婚して、いまではお子さんもいらっしゃいます。
これまでに下は小学六年生、上は40代のモデルさんに登場してもらいましたが、世代によって描くグランマはずいぶんと異なります。
例えば、20代の想像するグランマには先ほどの《YUKA》のように50歳年下のボーイフレンドとアメリカを横断する旅をするなどポジティブで元気。でも30代以降になるとネガティブな面も受け入れてくる傾向があるようです。体がだんだん動かなくなり、今日できたことが明日、できなくなる。生きていけばいくほど現実的な想像力が増してくるので、動きまわるおばあさんというよりは、老いを受け入れたアイディアが多いですね。新作も数点ほどありますが、40代の方の作品ではご夫婦だけで老後を向かえ、夫に先立たれてしまった妻が大晦日の夜、毎年ふたりでそうしたように、雪の降る神社で年を越す・・・というような年相応のリアルがあるんです。
ちなみに、数あるグランドマザーのなかに私の50年後も《MIWA》として入っています。セルフポートレートという意識はまったくなくて、自分でモデルをするつもりもなかったんですけれども、人におばあさんの格好をさせて自分がやらないというのもどうかなと思いまして(笑)。
けれど、実際に自分でやってみて、50年後の自分の願望をたった1枚だけに絞らなくてはならない作業自体が、非常に興味深く感じましたね。モデルの皆さん も、あっさり決まる方と、1年近くやり取りをする方、さまざまです。多分、こうはならないけれど、なれたらいいなという語り口でやってくれた方もいれば、今は望んでいないけれど、過去、こういうことを望んでいた自分に決別するという意味で撮られる方もいましたね。

《GEISHA(AKIYO/MAI/HITOMI/NORIKO)》 2000年ⓒ YANAGI Miwa 1800×2400mm
《GEISHA(AKIYO/MAI/HITOMI/NORIKO)》2000年 ⓒYANAGI Miwa 1800×2400mm

 

そもそも私が“グランドマザー”をテーマにした理由は、やはり女性の老いというものに対して愛着を持っているからなんだと思います。 グランドファーザーがないのが申し訳ないんですけど(笑)。女性に視点をおいた作品が多いのも、同性に対する愛情というか、自分にオーバーラップさせるからなのでしょう。
「マイ・グランドマザーズ」は鑑賞者に反映される作品、つまり「自分はどうだろう」と考えることができる作品だと思います。ですから展示構成も星を散りばめたように並べたいと考えています。ズラッと見て、気に入ったグランマのところで立ち止まってほしい。そして自分と重なる部分や共感する部分があるのはなぜか?を感じ取ってもらえれば嬉しいですね。
実際に50年後、モデルが創作したようになるかどうかはわからないけれども、今の時点でそうなるように願い、同時に鑑賞者の方々の未来に喜びがあればいい なと願っています。

(インタビュー 2008年11月)