アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真
2022.5.20(金)—8.21(日)
- 開催期間:2022年5月20日(金)~8月21日(日)
- 休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
- 料金:一般 700(560)円/学生 560(440)円/中高生・65歳以上 350(280)円 ※( )は当館の映画鑑賞券ご提示者、各種カード会員割引料金。各種割引の詳細はご利用案内をご参照ください。各種割引の併用はできません。 ※小学生以下、都内在住・在学の中学生および障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)年間パスポートご提示者は無料。
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近代日本写真史における前衛写真は、海外から伝わってきたシュルレアリスムや抽象美術の影響を受け、1930年代から1940年代までの間に全国各地のアマチュア団体を中心に勃興した写真の潮流です。活発に作品が発表された時期が大変短かかったことから、今まで活動内容についての検証があまりなされていませんでした。しかし近年、各地の美術館により研究が進み、海外の展覧会でも作品が注目される機会も増えています。
それまでも写真にとって絵画の影響は強いものでしたが、前衛写真は画家だけではなく詩人やデザイナーなどが参加し、その活動の幅を広げていました。特に1937年に「海外超現実主義作品展」が開催されたことによって、多くの写真家が触発され新しい表現へ向かい、画家たちは写真を使って、絵画では出来ない表現に挑戦していきました。しかし、次第に戦時下体制の強化とともに各地で行われていた活動は収束へと追い込まれていきます。
時代の波にあらがうことができずに、戦争の陰に隠れてしまっていた作品を見ていただくことで、自由に表現できる大切さと、写真で表現できることの幅広さを実感していただけることでしょう。
展覧会構成
第1章|インパクト―同時代の海外作家
前衛写真が大阪を中心に盛んとなるきっかけは、雑誌や写真集などを中心に同時代の海外の作家の作品に触れたことでした。『フォトタイムス』(1924年創刊 フォトタイムス社)『アサヒカメラ』(1926年創刊 朝日新聞社)などの写真雑誌のグラビアページや海外作家特集などにおいて、ウジェーヌ・アジェ、マン・レイなどの作家が紹介されます。また雑誌のグラビアだけではなく、実際の展覧会として展示されたのが、1931(昭和6)年に開催された「独逸国際移動写真展」と1937(昭和12)年に開催された「海外超現実主義展」でした。この2つの展覧会は東京だけではなく大阪などにも巡回しており、衝撃をうけた、と多くの作家が書き残しています。写真美術館の収蔵作品の中から、この時代に発表されたヨーロッパの写真家の作品を紹介します。
出品作家…マン・レイ、ウジェーヌ・アジェ、ハンス・ベルメール、アルベルト・レンガ―=パッチュ、セシル・ビートン、ブラッサイ
ウジェーヌ・アジェ《日食の間》1912年 東京都写真美術館蔵
マン・レイ《カラー》1930年頃 東京都写真美術館蔵
第2章|大阪
日本の前衛写真は関西から広がっていったといっても過言ではないでしょう。その中心にあったのはアマチュアの写真家が集い、活動をしていたグループでした。「浪華写真倶楽部」は1904(明治37)年に創立され、現在でも活動を続けているもっとも古い写真クラブです。このクラブに所属している作家の中には1930年代に入った頃、それまで盛んであった絵画的な影響の強いピクトリアリズム写真から、欧米からの新しい写真に影響をうけた新興写真へとその作風を変化させていった人たちがいました。その「浪華写真倶楽部」から先進的な作品の制作を目指した上田備山、安井仲治を中心とし1930(昭和5)年に「丹平写真倶楽部」が結成されました。また同年にはヨーロッパから帰国し、芦屋に移り住んだ中山岩太を中心に「芦屋カメラクラブ」も結成されます。その後、1937(昭和12)年に開催された「海外超現実主義展」から強い影響をうけた平井輝七、本庄光郎らが同年に「アヴァンギャルド造影集団」を結成します。これらのグループの作品を通して、もっとも盛んに前衛写真の活動を行った関西の写真家の作品に注目します。
出品作家…中山岩太、村田米太郎、安井仲治、河野徹、小石清、天野龍一、平井輝七、樽井芳雄、本庄光郎、椎原治、田渕銀芳、服部義文、矢野敏延、小林鳴村、音納捨三、ハナヤ勘兵衛
小石 清《疲労感》〈泥酔夢〉より 1936年 東京都写真美術館蔵
平井輝七《月の夢想》1938年 東京都写真美術館蔵
第3章|名古屋
名古屋の前衛写真は評論家や詩人、写真家が協同するような形で結成されていきます。 日本にシュルレアリスムを紹介した中心的な人物でもある評論家で詩人の山中散生、画家の下郷羊雄が中心となって結成された「ナゴヤアバンガルド倶楽部」の写真部会が独立し、1939(昭和14)年に「ナゴヤ・フォトアヴァンガルド」が結成され、詩人の山本悍右も参加します。その中心にいた人物が坂田稔です。坂田は大阪在住時代に浪華写真倶楽部に所属し、1934(昭和9)年に「なごや・ふぉと・ぐるっぺ」を結成しました。また『カメラアート』(1935年創刊 カメラアート社)や『フォトタイムス』などの写真雑誌に自身の写真論を展開し、名古屋のアマチュア写真家の同人誌である『カメラマン』(1936年創刊 カメラマン社)の中で「前衛写真再検討座談会」で中心的な発言を行います。彼は福岡を訪問し、ソシエテ・イルフのメンバーにも影響を与えていました。
出品作家…坂田稔、田島二男、山本悍右、後藤敬一郎
後藤 敬一郎 《最後の審判図》1935-40年 東京都写真美術館蔵
山本 悍右 《題不詳(脱衣棚と椅子)》1935年頃 東京都写真美術館蔵
第4章|福岡
「ソシエテ・イルフ」は1939(昭和14)年から1940(昭和15)年まで福岡で活動した前衛美術グループです。「古い(フルイ)」の逆さ読みで「イルフ」と名乗り、彼らはシュルレアリスムや抽象芸術といった「新しい」美のありかたを探求し、実践しました。主なメンバーは、地元のアマチュア写真グループに参加していた高橋渡、久野久、許斐儀一郎、田中善徳、吉崎一人(遅れて参加)と、後にデザイナーとして知られる小池岩太郎、画家の伊藤研之の7名です。他の地域のグループと異なるのは、全員が写真を扱うわけではなかった点です。また結成は1939年と他の地域に比べ遅かったものの、それぞれは1920年代の後半から作品の発表を始め、「アシヤ写真サロン」や「全関西写真連盟撮影競技」などに参加しており、伊藤も二科展などに出品し、福岡の中だけにとどまらずに制作活動を続けていました。
出品作家…高橋渡、久野久、許斐儀一郎、田中善徳、吉崎一人、伊藤研之
撮影者不詳《イルフ逃亡》 1939年 福岡市美術館蔵
久野久《海のショーウインドウ》1938年 福岡市美術館蔵
第5章|東京
東京で前衛写真の活動の中心となったのは、『フォトタイムス』の後援によって、1938(昭和13)年に瀧口修造、永田一脩、奈良原弘らを中心に設立された「前衛写真協会」でした。メンバーにはほかに、阿部芳文(展也)、今井滋、濱谷浩、西尾進、田中雅夫などがおり、写真家だけでなく画家も複数参加しています。瀧口は『フォトタイムス』などに前衛写真に関する論文を寄稿し、その後も、写真に関する文章をさまざまな雑誌に執筆して、協会の精神的な支柱となっていました。雑誌のグラビアページに掲載された当時の前衛写真の紹介では、写真家ではなく画家の作品が数多く取り上げられており、写真を使って新しい表現を目指す画家たちの意気込みが感じられます。また瑛九や恩地孝四郎はこういったグループなどの活動とは別に、フォトグラムやフォトモンタージュによる前衛的な写真作品を発表していました。
出品作家…永田一脩、恩地孝四郎、瑛九、濱谷浩
瑛九 〈フォト・デッサン〉より 1939年 東京都写真美術館蔵
永田一脩《火の山》1939年 東京都写真美術館蔵
主 催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都写真美術館
関連イベント
- 担当学芸員によるロビー・トーク
- 2022年7月15日(金) 14:00~(15分程度) 終了致しました
担当学芸員による展示解説を行います。
会場|2階ロビー
定員|30名(当日先着順、参加無料)
※開始時刻になりましたら、2階ロビーへお集まりください。 - ワークショップ「フォトグラム」をつくる
- 【①小・中学生コース(フォトグラム体験+講評)】2022年7月3日(日) 10:30~12:30
【②一般コース(展覧会解説+フォトグラム体験+講評)】2022年7月3日(日) 14:00~17:00
「フォトグラム」は光と影によってイメージをつくる白黒写真です。制作のプロセスを学ぶだけではなく、一般コースでは開催中の展覧会「アヴァンガルド勃興」展担当学芸員による解説の時間も設けます。デジタルカメラでは得られない、現像の魅力と展示作品への理解を深めていただけることでしょう。みなさまのご参加お待ちしています。
お申込み方法などの詳細はこちら
展覧会図録
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アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真
出品作品全図版を収録。イェレナ・ストイコヴィチ(オックスフォード大学)および藤村里美(東京都写真美術館学芸員)によるテキストなど。 体裁:A4判変型、208ページ 発行元:国書刊行会 価格:3,960円(税込)