写真のエステ - 五つのエレメント
平成25年度 東京都写真美術館コレクション展
2013.5.11(土)—7.7(日)
- 開催期間:2013年5月11日(土)~7月7日(日)
- 休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)
- 料金:一般 500(400)円/学生 400(320)円/中高生・65歳以上 250(200)円
- ※各種カード割引あり
( )は20名以上団体、当館の映画鑑賞券ご提示者、上記カード会員割引(トワイライトカードは除く)/
小学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料/第3水曜日は65歳以上無料
18世紀ドイツの哲学者バウムガルテンは、「感性学」を意味する「エステティカ」 (Aesthetica)という学問を提唱しました。このエステティカは、やがて近代日本に伝来して「美学」と訳されました。現在一般に普及している「エステ」または「エステティック」という和製語は、全身美容術を意味しますが、元々は18世紀西洋で生まれた「感性学」から派生しています。「エステ」はたんに人間の身体を美しく変える術だけではありません。自然界の現象や「私」の外にある様々なものを美しく感じ取る術であり、美しいと感じる「私」の心と感性を育む術でもありうるはずです。
この展覧会では「写真の美しさはどこにある?」をテーマとして、29,000点を超える東京都写真美術館の豊富なコレクションのなかから、企画者である私が感じている写真の美の在り方を選びとり、五つのエレメントに分けて紹介します。「光」「反映」「表層」「喪失感」「参照」というエレメントを手がかりとして、19世紀の初期写真から現代写真まで、当館のコレクション作品をたどりながら、美をめぐる数々の表現に目を向け、そのたたずまいを味わい、趣きを愛でてください。
「写真」は文字通り「真を写す」と言いますが、写真から「真実」を知ることよりも、「美」の豊かな広がりを感じ取ることが、時には大切なのではないでしょうか。「写真のエステ」をとおして、心の内に今までと異なる感性のチャンネルが開かれてくる機会となれば幸いです。
企画・構成=石田哲朗(東京都写真美術館/学芸員)
展示風景より
上)川内倫子作品 下)佐藤時啓作品
光は始原であり、生命を与えるもの。暗い部屋のなかに外界からの光が注ぎ、像を結ぶことが写真装置の本質である。
川内倫子《イリディッセンス》より 2009年 発色現像方式印画
佐藤時啓《Breath-graph》より「#155 YUBARI」1992年 ゼラチン・シルバー・プリント
水に映る光の像、ガラスや窓に映る世界。イメージは現と幻の境界にただよい、どちらともつかない情趣や感覚、豊かな重なりあいを生み出す。
山脇巌《球体に反射する室内》1932年 ゼラチン・シルバー・プリント
物質の質感、皮膚感。ものの表面とディテールへのフェティッシュな感覚。そしてモノクロームの印画紙の表層に色彩をのせる「化粧」をほどこすことで、外国人を魅了したエキゾティックな明治期の横浜写真。
スティルフリード&アンデルセン社《題不詳(芸者像)》明治初期 鶏卵紙に人工着色
廃墟や昔の記念写真。失われた時の痕跡は人の記憶や情動をゆさぶる。写真をとおして人は取り返しのつかない時間の流れに思いをはせる。
クリスチャン・ボルタンスキー《Gymnasium Chases》より 1991年 フォトグラビア印刷
ひとつのイメージは他のイメージを源泉として未来に再生される。ひとつのイメージは過去の視覚文化の歴史とつながっている。
森村泰昌《なにものかへのレクイエム(創造の劇場/パブロ・ピカソとしての私)》2010年 ゼラチン・シルバー・プリント