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作者インタビュー



ゲル村の伝統的なディンカ族の家の内部。壁には牛の角を象った彫刻がなされている 南部スーダン、2006年
エチオピア空軍のミグ戦闘機からの機関銃攻撃を避けるために、夜通し歩き、カレマ・キャンプに到着した何千人もの難民たち。ティグレ州西部、
エチオピア、1985年
※図版はすべて
Photographs by Sebastiao SALGADO / Amazonas images. Organized by Lélia Wanick Salgado, the exhibition curator.

セバスチャン・サルガド AFRICA ~生きとし生けるものの未来へ~


-今回の展覧会では、サルガドさんが30年以上撮り続けてこられたアフリカの写真をまとめて紹介する機会となりますが、どのようなメッセージが込められているのですか。


アフリカは「最も美しい大陸」と呼ばれています。言語や風習が異なる民族が暮らしていますが、元来、友好的な種族が多く、豊かな文化を育む大陸でした。しかし、植民地時代から現代を経てその様相は激変したのです。ヨーロッパからの入植者が土地や作物を搾取し、社会の仕組みも統治しやすいように手を入れてしまいました。そして国際的非難が集中すると、何も残さず引き上げ、結果、アフリカの多くの地域が現在に至るまで、民族や政治的問題を山積みしたまま、助けを求めています。そして今また、アフリカの資源獲得を目論んだ各国間で、新たな利権を巡る抗争が生まれているのです。
アフリカの歴史と豊かな資源と雄大な自然には、人類の未来へのヒントがたくさん隠されています。偏った政治的視点や観光対象としてだけではなく、アフリカの現在を冷静に見て、国際関係の可能性や豊かな文化的要素を思い返して欲しいのです。


コレム難民キャンプで暮らす授乳中の母親のために「セーブ・ザ・チルドレン基金」が運営する栄養センター、エチオピア、1984年  アンゴラ解放人民運動(MPLA)を支援するデモ集会で、アンゴラ、ルアンダ、1975年

コレム難民キャンプで暮らす授乳中の母親のために、設置された「セーブ・ザ・チルドレン基金」が運営する栄養センター。エチオピア、1984年
アンゴラ解放人民運動(MPLA)を支援するデモ集会で、アンゴラ。ルアンダ、1975年


-サルガドさんが度々訪れているルワンダの歴史が「アフリカ」展を象徴しているように思います。ルワンダでの体験についてお話いただけますか。


そうですね、ルワンダとは非常に深い縁があります。そしてアフリカについて考える上でも忘れてはならない土地です。ルワンダを初めて訪れた時、私は写真家ではありませんでした。当時、エコノミストとしてルワンダの農業発展を構想するプロジェクトに参加していて、1971年に茶畑を視察したのです。その後、数年経って写真家になりました。
そして再びルワンダを訪れたのは、1991年「WORKERS」の取材時でした。その時の作品は今回も展示していますが、光り輝く美しい茶畑のなかで、みな生き生きと働いていました。しかし次の取材で私は、変わり果てたルワンダの姿を目の当たりにしました。1994年、フツ族とツチ族間で大量虐殺(ジェノサイド)が起き、美しかった茶畑は全て焼き払われ、3ヵ月余で80~100万人が命を奪い合っていたのです。これまでに数え切れないほどの現場に足を運びましたが、この時のルワンダは人間の為せる業とは思えぬ、凄惨を極めた状況でした。
その後も私は様々な土地で歴史に刻まれる人間の生き方を見てきました。そして、新しいプロジェクト「GENESIS」をスタートさせ、2005年に元茶畑があった地域に近い国立ゴリラ保護地域を訪れたのです。人間の歴史が転換していく一方で、何千年も前から変わることのない豊かな自然の中で動物たちが生きている土地です。
私はこのように30年余の間に4回ルワンダを訪れていますが、これだけ状況が激変した場所も、異なる次元でアプローチした土地も他にありません。皆さんは、私の経験を作品を通して繰り返し見ることができます。これらのルワンダのルポルタージュから、アフリカでかつて起きていたこと、今も変わらず起きていること、ひいては世界各地で類似したことが起き続けていることを思い返してみてください。



円形や放物線状の模様が描かれるソススフレイ地域の砂丘、ナミビア、2005年  カオコランド地方マリエンフルスのカタパティ川近くに暮らす遊牧民ヒンバ族のグループ、ナミビア、2005年

環状や放物線状の模様が描かれるソススフレイ地域の砂丘。ナミビア、2005年
カオコランド地方マリエンフルスのカタパティ川近くで暮らすヒンバ族。 ナミビア、2005年



-現在、進行中の新しいプロジェクト「GENESIS」について教えてください。


「GENESIS(起源)」は準備期間4年を経て、2004年から始めた地球環境と人間社会の関係を再考するプロジェクトです。海や山、砂漠といった自然の写真を撮り始めたので、全く新しい作品を撮り始めたと思った方もいらっしゃるかもしれませんが、私の中ではこれまでの全ての仕事と繋がっています。人類が切り拓いてきた土地、そこで行われた政治と歴史、戦争や紛争、医療問題などを根源的に振り返っていくと、そこには人類の営みが始まるずっと以前から存在し続ける命、自然があるのです。生きとし生けるもの全てのルーツを辿り、関係性を再考するために、私は前人未踏の地に行ってできるだけ手つかずの自然や動物と対峙すると共に、原始的な社会を営む人々を取材しています。
「GENESIS」プロジェクトでは、「WORKERS」や「EXODUS」シリーズで行ってきた展覧会やレクチャー、出版に加え、幅広い活動を行います。故郷ブラジルで数年前から植林を始め、すでに1,500エーカーの森を再生しました。また、次世代の育成のために写真作品を用いた小学校向け教育プログラムも実施します。これらの活動の拠点となるNGO「テラ・インスティトゥート」も設立しました。今後は欧米や中国など、世界各国で「GENESIS」プロジェクトを実施することを計画しています。



ヴィルンガ国立公園ビソケ火山のクレーター湖。手前の植物はジャイアントセネシオ、ルワンダとコンゴ民主共和国の国境地域、2004年  ディンカ族のアマク放牧キャンプの夕暮れ。群れが戻ってくるこの時間が一日の中で最も活気がある、南部スーダン、2006年

ヴィルンガ国立公園ビソケ火山のクレーター湖。手前の植物はジャイアントセネシオ。ルワンダとコンゴ民主共和国の国境地域、2004年
ディンカ族のアマク放牧キャンプの夕暮れ。牛の群れが戻ってくるこの時間が、一日の中で最も活気がある。南部スーダン、2006年



-プロジェクト完成まで、とてもお忙しい日々ですね。今後の予定を教えてください。


先日アマゾンから帰ってきたばかりですが、今週末パリを出て、アラスカへ撮影に行きます。交通手段もない大自然の中へ飛び込んでいくので、スタッフ全員分の食糧も持っていくんです。移動するだけでも大仕事ですが、「GENESIS」プロジェクトはほとんどこのようなスタイルで撮影しています。
8月にはアマゾン、年末は南グルジア、来年はアジア、マダガスカル、アメリカ、ニュージーランド・・・、もう随分先までスケジュールが決まっています。よくどうやって撮影する土地を選ぶのか聞かれますが、人にはそれぞれ「自分が行くべき場所」というものがあると思っています。どこへ向かうのか決めれば、自ずと次に行くべき土地が見つかり、またその次へと繋がっていくのです。そして2012年には全ての撮影を終え、「GENESIS」プロジェクトを次の段階へ進め、再び世界各国を廻って行く予定です。

(2009年5月 インタヴュー・構成:丹羽晴美)



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セバスチャン・サルガド

セバスチャン・サルガド(Sebastião Salgado)
1944年、ブラジル生まれ、パリ在住。ブラジル《セラ・ペラダ金鉱》等、徹底した取材に裏打ちされた説得力ある写真が認められ、80年代よりユージン・スミス賞、世界報道写真賞など受賞多数。