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左)無題 シリーズ《Illuminance》より 2007
右)無題 シリーズ《Illuminance》より 2009


川内倫子展

現在の日本を代表する写真家の一人として国内外に多くのファンを持つ川内倫子。木村伊兵衛写真賞を受賞したデビュー作『うたたね』『花火』発刊から10年 目にあたる昨年、彼女の代名詞ともなってきた6×6のカラー写真による写真集『Illuminance』(イルミナンス)を世界同時発売した。5月から開 催される個展では、日本語で「照度」という意味をもつこの≪Illuminance≫と、新シリーズ≪あめつち≫≪影をみる≫が出展される。まさに今、作 家としての大きな転換期を迎えている彼女に話を聞いた。

無題 シリーズ《Illuminance》より 無題 シリーズ《Illuminance》より 2011 無題 シリーズ《Illuminance》より 2009
無題 シリーズ《Illuminance》より 2009
無題 シリーズ《Illuminance》より 2011 無題 シリーズ《Illuminance》より 2009


写真集『Illuminance』は、6×6のフォーマットで撮影してきた作品の集大成だと思いますが、構成は自分でされたのですか?

「構成は自分にとってとても大事な作業です。写真のセレクトやレイアウトを繰り返したり、プリントを何回もやり直したり。たった一枚の写真を入れ替えるだけで写真集全体の見え方が大きく広がることもある。例えるなら、鍋の灰汁をすくって透明にしていくとか、粉をふるってサラサラにしていく感覚に近いのですが、そういうしつこい作業を繰り返していくと、その先に見えてくるものがある。この発酵時間を経て、はじめて作品を発表する段階に進むことができるんです」

作品制作において一貫したテーマや問題意識はありますか?


「自分の記憶が混乱する、例えば、寝起きの時に夢と現実を混同したり、自分の過去から何でもない出来事をふと思い出したり。それがとてもリアルで、ものすごく気持ち悪くなる時があります。日々見ている景色は覚えていなくても、実はそれらは全部脳の中に入っていて、それを内包しながら自分たちは生きている。そんな強迫観念のようなものがいつも自分にはあって、とても怖くもあり、またインスピレーションを受ける源ともなっている。そういう意味を込めて、最初に出した写真集には『うたたね』というタイトルをつけたんですが、『Illuminance』もそのコンセプトは変わりません」

写真を撮ることで、時間や記憶の束縛から解き放たれたいということでしょうか?

 

「写真を撮る時は、その一瞬に集中するわけですが、そうすると過去も未来もなくなるように感じる。その瞬間に集中できることが喜びだし、救いだし、自分がクリアになる、もしくは自由になれる瞬間。だから、写真集を作る時にも、時間や場所が特定できる要素はすべて取り除いて構成しています」

 

川内さんの作品は海外でも度々話題になります。


「海外の人にはよく、あなたの写真は俳句でしょ?と言われます。最初はピンときませんでしたけど、最近は、たしかに俳句かも!と思うようになりました(笑)。自然や日常のモチーフを使って、ある形式美、様式美にはめていくという手法が、彼らの俳句に対する解釈と近いのかもしれません。欧米の一神教ではなく、神道的なもの、八百万の神様がいるという日本の文化や、さまざまなところに崇高なものを発見するという感性を作品に見いだして解釈をしてくれることが面白いなと思います」

無題 シリーズ《あめつち》より 2012 無題 シリーズ《あめつち》より 2012
左右)無題 シリーズ《あめつち》より 2012  

 

新作≪あめつち≫のシリーズは、4×5の大判カメラを使用されていますね?


「きっかけは、阿蘇の野焼きを撮り始めたことでした。最初はいつも通り6×6のローライフレックスと4×5、35ミリのカメラを持っていたのですが、撮影してみたら4×5が一番しっくりきた。阿蘇の雄大さや野焼きというものに対して畏敬の念をもって取り組むには、他のカメラよりも多くの手順を必要とする4×5が合うと思いました」


野焼きという儀式に対して、4×5での撮影という儀式で臨むということですか?


「6×6で撮るという行為は、一瞬のはかなさをさっとすくい上げるような感じだけど、4×5の撮影は被写体と腰を据えてじっくり向かい合わないといけない。
いろんな要素が入ってくる被写体はとても魅力的です。野焼きそのものが持っている意味や炎に対する単純な怖さ、阿蘇の広大さ。阿蘇を撮影した今回のポスターのビジュアルは、まさに陰と陽という感じですよね。二元性を感じさせるものにはとても惹かれるし、相反する二つのものが混ざり合うことによって強度が増してくると思うんです」


写真を撮ることが、そういう二つをつなぐ行為と感じる?


「天と地が別れたところから世界が始まったという神話があります。常に相反するものがバランスをもって成り立っている、それが世の中の理であるとすれば、天と地はまさにその起源。そこに思いが至ったときに答えがぼろぼろと見えてきて、同時期に平行して撮っていたイスラエルの嘆きの壁や、宮崎県の銀鏡神社の夜神楽などが、答え合わせみたいにどんどんつながっていきました。文明や文化の起源であり、それをつなぐのが人なんだなと思いました。
天があるから光があって、その光を受け止めて写るのが写真で...そういうことを考えるとすごく面白いなと思って」

 

無題 シリーズ《あめつち》より 2012 無題 シリーズ《あめつち》より 2012
左右)無題 シリーズ《あめつち》より 2012  

無題 シリーズ《あめつち》より 2012
無題 シリーズ《あめつち》より 2012

今回の展示では、映像作品も登場します。


「映像は写真より身体感覚に近い感じがするんです。だから、写真と映像をあわせて展示することで、作品の見え方も広がるんじゃないかと思っています」

 

最後に、今回の展覧会へ向けた抱負を。


「15年ほど撮り続けてきた6×6のカラー写真に一区切りがつき、新シリーズが発表できる段階まで来たところで、個展を開催する機会を得られたことがとても嬉しいです。作品を多くの人々と共有していくことの大切さを、前にも増して感じるようになりました。そういう意味でも、今回の展示は自分でもとても楽しみにしています」

 

聞き手=石田哲朗(東京都写真美術館学芸員) 構成=富田秋子
2012年1月インタビュー

展覧会情報はこちら

川内倫子さんの公式ホームページとブログには、近況や写真がアップされています。
Rinko Kawauchi (川内倫子公式ホームページ)
りんこ日記 (ブログ)

※土曜・日曜に「川内倫子展」へのご来場を予定されるお客様へ
ただいま土曜・日曜の午後は、会場内が大変混雑しております。
ごゆっくりと鑑賞していただくために、週末は午前中にご来場されることをお勧めいたします。