学芸員コラム

ルイス・W.ハイン/ナッシュビルの新聞少年たちの一群。真ん中にいるのは7才のサム。頭が良く、いたずらである。この少年は夜も新聞を売っている。/1910年メリーランド州ボルモチア大学アルビン O.キューン図書館蔵 Lewis W.Hine/Group of Nashville newsles.In middle of group is 7-year-old Sam.Smart and profanc.He sells night also.Nov.1910 (c) Albin O.kuhn Library & Gallery.University of Maryland.Baltimore Country

写真が見る者の心を揺さぶり、ついには社会変革まで起こす大きな材料となり得ることは、今でこそ当たり前のように捉えられています。しかし、その始まりにはいったいどんな背景があったのでしょうか?19世紀末から20世紀前半のアメリカでは、このソーシャル・ドキュメンタリー写真が積極的に用いられました。当時、南北戦争が終わってひと段落したアメリカの写真界では、社会の現実を忠実に記録し、発表することで人々の目を社会問題に向けさせ、社会改良を図ろうとする考えが広まりつつありました。写真はそれを表現する最適な手段だったのです。
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ジェイコブ・A.リース 無法者たちの牙城 マルベリー・通り59 1/2番地、 1888年頃、東京都写真美術館蔵 Jacob A.Rlis "Bandlts'Roost"-59 1/2Mulberry Street (c) 1888 Tokyo Metropolitan Museum of Photography |
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ベレニス・アボット グレイ・ハウンド・バス・ターミナル、西34丁目244-248番地 1936年7月14日 Berenice Abbott Greyhound Bus Terminal,244-248 West 34th Street July 14,1936 Federal Art Project,“Changing New York”Museum of the City of New York,Abbott file #142 |
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ドロシア・ラング 農業安定局で社会復帰中のクリス・アドルフのこども。ワシントン州ワパト付近のヤキマ渓谷 Dorothea Lange Washington, Yakima Valley, near Wapato. One of Chris Adolph's younger children. Farm Security Administration Rehabilitation clients, 1939 Library of Congress, Prints & Photographs Division, FSA/OWI Collection |
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ベン・シャーン 無題(無職の猟師たち、ルイジアナ州ブラクマインズ・パリッシュ)1935年 10月 フォッグ美術館蔵 Ben Shahn Untitled (unemployed trappers,Plaquemines Parrish,Louisiana) October,1935 Courtosy of the Fogg Art Museum,Harvard University Art Museums, Gift of Bernerda Bryson Shahn Macintyre,Alian (c) 2004 President and Fellows of Harvard College |
これらの作品は新聞や雑誌、またはポスターなどに掲載され、多くの人々に信じられない真実を白日のもとにさらしました。ハイン自身も作品を幻灯用のスライドにして各地をまわり、講演活動を行いました。やがてハインの警句なメッセージは世論を動かし、児童労働法制定の機運を高める結果となりました。彼が写した作品が、子供たちを過酷な労働から救う強力な武器となったのです。その後、写真における社会的な役割は重要な位置を確立していき、1940年には映画『怒りの葡萄』でも取り上げられた農民の惨状を、農業安定局のプロジェクトメンバーとして雇われたウォーカー・エヴァンズ、ドロシア・ラング、ベン・シャーンらが記録しました。彼らが写し出す作品は、単なる記録にとどまらず、芸術性の点でも高い評価を得ています。そして、人々に都市の新たな価値観を見出させたのが、ベレニス・アボットの『変わりゆくニューヨーク』です。アボットは急速な機械化と工業化によって激変する摩天楼都市を即物的な眼で写し出すことに成功しました。また、1936年に設立された写真家集団『フォトリーグ』では、写真教育で世界を変えていくことを信じて、ソーシャル・ドキュメンタリーが取り入れられるようになりました。労働者階級が抱える問題など都市生活の影の部分を描写した作品は、リースやハインらがより良い社会を夢みた頃のように、どれも勇気と情熱に溢れています。アメリカを変えたソーシャル・ドキュメンタリー写真の数々。これらの作品はこれからもなお、私たちの心の中に一石を投じ続けていくことでしょう。
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○主催 :東京都/東京都写真美術館/読売新聞東京本社/美術館連絡協議会
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