The Kiss

Photo:Naohiro Utagawa
Courtesy by MASAHIRO MAKI GALLERY

ここ数年の間に、スマートフォンは当たり前のような存在になり、まるで身体の一部になったかのように多くの人々の手の中に握られている。そしてその小さな画面から溢れ出す大量の情報によって人々の感情が揺り動かされ、出会いやすれ違い、分断を生み出してきた。そんな時代を象徴するモニュメントはどんな形を取るのだろうか、という問いから、本作は、「あいちトリエンナーレ2019」の「情の時代」というテーマのもと委嘱作品として制作された。大きな手の彫刻は社会主義の啓蒙的なモニュメントを連想させながら、二つの腕が掲げるスクリーンに映された顔同士は、まるでキスをしているかのように重ね合わされている。しかし実際にはただ目を閉じて個別に撮影された二つの顔の映像でしかない。また、手の彫刻部分は3Dプリンターで出力されており、データとして簡単に複製し、拡大縮小できることで、啓蒙的なモニュメントとは異なる軽妙さが与えられ、本作が象徴するメッセージ性に不確かさを残し、作品自体の抽象度を高めている。